人生経験が育んだ「価値観の異なる人とも歩み寄る力」を新しい人間関係に活かすヒント
ライフステージの変化に伴う人間関係の広がり
定年退職を迎えられたり、子育てを終えられたり、あるいは住み慣れた場所から新しい環境へ移られたりと、人生の節目には様々な変化が訪れます。それに伴い、これまでとは異なる立場の方々や、多様な価値観を持つ方々との新しい出会いが増えることも少なくありません。
地域の活動に参加してみたり、新しい趣味の集まりに顔を出してみたり。そのような場で、自分にとって「当たり前」だった考え方や習慣が、他の方にとっては全く異なるものであると気づき、少し戸惑いを感じることもあるかもしれません。
しかし、そのような状況だからこそ、これまでの人生経験で培われた「価値観の異なる人とも歩み寄る力」が、新しい人間関係を豊かにするための大きな強みとなります。今回は、その「歩み寄る力」がどのように培われ、どのように新しい環境で活かせるのかについて考えてまいります。
人生経験が育んだ「歩み寄る力」とは
「価値観の異なる人とも歩み寄る力」とは、自分自身の「当たり前」に固執せず、相手の考え方や感じ方にも耳を傾け、違いを認めながら、共通の理解点や関心事を見つけようとする姿勢のことです。それは、相手に完全に同調することではなく、互いの違いを尊重しつつ、共に心地よい関係性を築くための知恵と言えるでしょう。
この力は、一朝一夕に身につくものではありません。長年の社会人経験の中で、異なる部署や立場の人と協力して一つの仕事を進めた経験。あるいは、子育てを通じて、価値観の違う他の親御さんや先生方と関わった経験。地域の活動で、多様な考えを持つ人々と意見を調整しながら物事を進めた経験。友人や家族との関係の中で、意見がぶつかりながらも、お互いを理解しようと努めた経験。
これら一つ一つの経験が、私たちの中に「自分の見方だけが全てではない」「人にはそれぞれの事情や考えがある」という理解を育み、粘り強く相手と関わるための「歩み寄り」の土台を築いてきたのです。時に、分かり合えないことに悩んだり、関係がこじれてしまったりといった苦い経験もあったかもしれません。しかし、それらも含めて、多様な人間関係の中で試行錯誤した経験こそが、この「歩み寄る力」を培う貴重な糧となっています。
新しい人間関係で「歩み寄る力」を活かすヒント
では、人生経験で培われたこの「歩み寄る力」を、新しい人間関係の中でどのように活かせるでしょうか。具体的なヒントをいくつかご紹介します。
1. 相手の「なぜ?」に関心を持つ
人はそれぞれ、これまでの経験や環境に基づいて独自の価値観を持っています。相手の言動が自分には理解できないと感じたとき、「なぜそう考えるのだろう?」「そうする背景には何があるのだろう?」と、相手の「なぜ?」に関心を持ってみることが大切です。すぐに否定したり、自分の価値観を押し付けたりするのではなく、相手の立場や考えに寄り添おうとする姿勢が、歩み寄りの第一歩となります。
2. 違いを「面白さ」として捉える
価値観の違いは、対立の種になることもありますが、見方を変えれば、新しい発見や学びの機会でもあります。自分とは全く違う考え方や経験を持つ人の話を聞くことは、世界を広げることに繋がります。違いを「面倒なもの」と捉えるのではなく、「面白くて興味深いもの」として受け止める意識を持つことで、多様な人々との関わりをより楽しめるようになります。
3. 共通の目的や関心事を探す
たとえ価値観が異なっていても、特定の活動や集まりに参加している以上、何らかの共通の目的や関心事があるはずです。例えば、地域の清掃活動であれば「地域をきれいにしたい」、趣味のサークルであれば「〇〇を楽しみたい」といった共通項があります。違いに焦点を当てるのではなく、共通の目的に向かって協力できる点を探すことで、自然な形で歩み寄りやすくなります。
4. 譲れないことと譲れることを見極める
多様な人々との関わりでは、全てにおいて意見を一致させることは難しい場合もあります。その際に重要なのは、自分にとって「これだけは譲れない」という大切な価値観と、状況に応じて「ここは譲っても大丈夫」と思える部分を見極めることです。全てを頑なに守ろうとするのではなく、柔軟に対応することで、相手との関係性を円滑に保つことができます。
5. 敬意をもって距離を置くという選択肢
時には、どうしても価値観が合わず、歩み寄ることが難しい場合もあります。そのような状況で無理に相手に合わせようとすると、自分自身が疲れてしまったり、関係性がこじれてしまったりすることもあります。全ての人と深く分かり合う必要はありません。互いの違いを認めつつ、無理のない範囲で、敬意をもって適切な距離感を保つことも、より良い関係性を築くための一つの賢明な選択肢です。これもまた、長年の経験から身についた「自分を守る力」であり、「歩み寄り」の一つの形と言えるかもしれません。
まとめ
長年の人生経験の中で、私たちは意識するしないに関わらず、様々な人との関わりを通じて「価値観の異なる人とも歩み寄る力」を培ってきました。この力は、新しいライフステージで出会う多様な人々との関係性を築く上で、非常に強力な武器となります。
すぐに分かり合えなくても大丈夫です。相手の「なぜ?」に関心を持ち、違いを面白がり、共通点を探す。そして、時には譲り、時には適切な距離を置く。これまでの人生で培った知恵を活かし、焦らず、ご自身のペースで新しい人間関係を育んでいかれてください。人生経験が育んだ「歩み寄る力」は、きっとあなたの新しい日々をより豊かにしてくれることでしょう。