人生経験が培った「尋ねる力・質問する力」を新しい人間関係に活かすヒント
新しい環境に身を置いたとき、あるいは長年慣れ親しんだ環境から変化があったとき、人間関係の築き方に戸惑いを感じることは少なくないかもしれません。どのように他の方と交流を始めたら良いのだろうか、自分の居場所はどこにあるのだろうか、そういった思いが心をよぎることもあるかと存じます。
これまでの人生で培ってきた経験やスキルを、どのように新しい人間関係に活かせるのだろうか。今回は、私たちが無意識のうちに身につけている「尋ねる力」や「質問する力」に焦点を当て、これがどのように人間関係を豊かにするための強みとなりうるのか、ご一緒に考えてまいりましょう。
「尋ねる力・質問する力」とは何か
「尋ねる力」や「質問する力」と聞くと、何か特別な技術のように思われるかもしれません。しかし、これは私たちが日常生活の中で自然に行っている、ごく基本的なコミュニケーションの一つです。
単に情報を得るためだけでなく、相手に関心を持っていることを示したり、対話を深めたりするために、私たちは相手に問いかけます。「今日の天気は良いですね」という挨拶から、「〇〇さんのおすすめは何ですか?」といった軽い問いかけまで、尋ねるという行為は多様な形をとります。
なぜ「尋ねる力」は人生経験と共に育まれるのか
この「尋ねる力」は、実は私たちの長い人生経験の中で、様々な場面を通して自然と育まれてきた強みであると考えられます。
例えば、社会人として働いていた頃を思い出してみてください。会議で不明点を質問したり、顧客のニーズを正確に把握するためにヒアリングを行ったり、同僚と協力するために状況を確認し合ったりと、常に相手に尋ね、情報を得る、あるいは関係性を構築する行為を行ってこられたのではないでしょうか。
また、子育ての経験も「尋ねる力」を培う大きな機会です。お子様の様子を知るために「今日はどうだった?」と尋ねたり、一緒に何かを学ぶ際に「これはどういう意味?」と質問したりと、相手の状況を理解し、成長をサポートするために、多くの問いかけを重ねてこられたはずです。
地域社会での関わりや趣味の場でも同様です。近所の方に地域の出来事を尋ねたり、同じ趣味の方にやり方やコツを質問したりすることで、新しい知識を得るだけでなく、そこから会話が生まれ、関係性が育まれていきます。
こうした一つ一つの経験が、「尋ねる力」という形で、私たちの内側に確かに積み重なっているのです。それは、単に好奇心を満たす力ではなく、他者との間に橋を架け、関係性を築き上げていくための、能動的なコミュニケーションスキルなのです。
「尋ねる力」を新しい人間関係の強みとして活かす
人生経験の中で培われた「尋ねる力」を、新しい人間関係の中で意識的に活かしてみましょう。これは、受け身ではなく、自分から関係を育むための一歩となります。
具体的に、どのような場面でこの強みを活かせるでしょうか。
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新しい趣味の集まりやサークルで: 共通の活動について尋ねることは、自然な会話の糸口になります。「この道具はどのように使うのですか?」「この趣味を始められたきっかけは何ですか?」といった、その場や活動に関する簡単な質問は、相手も答えやすく、会話を弾ませやすいものです。
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地域活動やボランティアで: 地域の歴史や活動の目的、ご自身の役割について尋ねることは、関心を示すことにつながります。「この地域の昔の様子について教えていただけますか?」「この活動はどのようなことを目指しているのですか?」といった問いかけは、相手の知識や経験を尊重する姿勢を示し、信頼関係を築く上で役立ちます。
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家族との関係で: 長年の付き合いがある家族であっても、尋ねることは関係を深める上で重要です。お子様やパートナーに「最近、何か楽しいことはあった?」「何か困っていることはない?」と尋ねることは、相手への関心と気遣いを伝え、安心して話せる雰囲気を作ります。
「尋ねる力」を効果的に使うための工夫
「尋ねる力」を人間関係の強みとして活かすためには、いくつかの小さな工夫が効果的です。
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相手への配慮を忘れない: 相手が忙しそうでないか、尋ねる内容がプライベートに踏み込みすぎていないかなど、相手の状況や気持ちを想像しながら尋ねましょう。丁寧な言葉遣いを心がけることも大切です。
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オープンクエスチョンを意識する: 「はい」か「いいえ」で答えが終わってしまうクローズドクエスチョンだけでなく、「~について、もう少し詳しく教えていただけますか?」「~について、どう思われますか?」のように、相手が自由に答えられるオープンクエスチョンを織り交ぜることで、会話がより広がります。
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尋ねた後は丁寧に耳を傾ける: 質問するだけでなく、相手の話をしっかりと聞く姿勢が重要です。相槌を打ったり、相手の言葉を繰り返したり、「なるほど、それでどうなったのですか?」とさらに尋ねたりすることで、相手は安心して話すことができ、信頼関係が深まります。
もし、「何を尋ねれば良いか分からない」と感じる場合は、まずはその場や共通の話題に関する簡単なことから始めてみましょう。天気のこと、今日の出来事、持っているもの(本や小物など)、共通の知人についてなど、身近なことから尋ねてみるのがおすすめです。
結びに
私たちは皆、長い人生の中で、様々な経験を通して多くの力を培ってきました。「尋ねる力」もまた、そうした大切な強みの一つです。それは、新しい扉を開き、人との繋がりを深めるための、あなただけが持つ貴重な鍵となりえます。
これまでの経験の中で自然と身についた「尋ねる力」を意識し、恐れずに一歩踏み出してみてください。小さな問いかけは、相手への関心となり、温かい交流の始まりとなるでしょう。ご自身の内にある確かな強みを信じて、新しい人間関係を豊かに育んでいかれることを願っております。